令和8年4月1日より、労働安全衛生法の改正法にもとづき「高年齢者の労働災害防止のための指針」が適用となりました。
この指針では“高年齢者の特性に配慮した作業環境の改善、作業の管理等、高年齢者の労働災害の防止を図るために事業者が講ずるよう努めなければならない措置”について示されています。
定年の引上げや健康寿命の延長によって高年齢でも働く機会が増えていますが、会社は高年齢の従業員が安全に働けるエイジフレンドリーな職場づくりに努めなければいけません。
なお、この指針のなかには、国や関係団体による支援策を活用するよう示されていますが、どのような支援を活用すればよいのでしょうか。
高年齢者の労災を防ぐためにどのような取組みが必要なのか、支援制度のご紹介とあわせて説明します。
努めなければいけない取組みとは?
「高年齢者の労働災害防止のための指針」では、会社が取り組まないといけない“事業者が講ずべき措置”について示されています。
“事業者が講ずべき措置”とは、つぎのとおりです。
- 安全衛生管理体制の確立
まず、経営陣自らが高年齢者労働災害防止対策にかんする安全衛生方針を表明し、方針にもとづいた実施体制について指導します。なお、安全委員会などがあるところでは調査審議を行い、無いところでも従業員との意見交換ができる環境を築かなければいけません。
また、労災の発生源となりえるものを洗い出したうえで、その対策の優先順位を検討(=「リスクアセスメント」)し、年間ごとに実施計画の策定、評価に取り組みます。 - 職場環境の改善
身体機能が低下した高年齢者でも安全に働けるよう、職場環境の改善に取り組みます。例として、安定した照度がある環境、転倒事故を防ぐための滑りにくい環境、危険な場所や状態を知らせてくれる環境、熱中症対策がととのっている環境、重量物の取り扱いに配慮する環境などにととのえることや、介護作業での負担軽減、デジタル機器の使用時の配慮を意識するため、施設の工事や、機器・装具の導入を実施します。
また、長期間の勤務をさせない、こまめに休憩させる、負担がかかったり、判断のいる作業を任せない、業務量に配慮する、熱中症対策のために水分補給させることなども指導します。 - 健康や体力状態を把握
定期的な健康診断や、継続的な体力チェックを行います。 - 健康や体力におうじた対応
従業員の健康状態などを把握したうえで作業内容や勤務時間を見直し、健康診断や体力チェックの結果によって必要であれば医師に意見を聴取したり、保健指導やメンタルヘルスケアなどを実施します。 - 安全衛生教育
従業員本人にたいし、安全衛生教育を行うほか、作業内容やリスクについて図解や映像資料などを用いて明瞭な説明を行います。なお、自らの身体機能や体力について理解してもらい、労災リスクについて客観的な認識を持ってもらうよう指導します。
管理監督者などにたいしても安全衛生対策についての教育を行いますが、万が一従業員が脳・心臓疾患を発症するなど緊急事態が発生したときの対応についても教育を行うことが望ましいとされています。
以上のように、会社ばかりが指導などを行うだけでなく、高年齢の従業員本人の協力もあわせて取り組んでいくことが必要となります。
どんな支援があるの?
「高年齢者の労働災害防止のための指針」のなかで、国や関係団体の支援を活用することが望ましいとされています。支援策として、つぎの例があげられています。
- 補助金を活用する
- 厚生労働省をはじめ、労働災害防止団体およびJEED(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)のホームページなどで提供されている取組事例を参考にする
- 中央労働災害防止協会や業種別労働災害防止団体などが行う、コンサルタントなどの専門家による現場診断や助言を活用する
健康管理については、医師や保健師などが開催する研修や健康相談に参加する - 高年齢者の労災防止への取組を評価する表彰制度やコンクールに参加し、社会的評価の向上につなげる
- 地域・職域連携協議会や加入している健康保険の保険者が開催する、健康づくりなどのセミナーや研修に参加する
労災防止のための取組みの実施にたいする直接的な支援としては、補助金を活用することがあげられます。職場環境の改善のため、施設の修繕や設備・装具などの導入を行う場合や、専門家の指導をうけるには経費がかかってしまうため、この経費の一部を補助するものが「エイジフレンドリー補助金」です。
エイジフレンドリー補助金について
厚生労働者が支援し、一般社団法人日本労働安全衛生コンサルタント協会が運用する「エイジフレンドリー補助金」は、例年5月中旬頃から10月末頃までに申請受付がおこなわれる制度です。
1年以上事業を継続し、労災保険に加入している中小企業が申請できるもので、取組みの内容におうじて申請できるコースが定められています。なお、コースごとに、従業員の対象年齢などの要件や補助される金額が異なっています。
※ 中小企業とは、業種や常時使用する労働者数、資本金又は出資の総額によって定められています。
補助概要(参考:令和7年度)
- 総合対策コース、転倒防止・腰痛予防のための運動指導コース
専門家によるリスクアセスメントの実施にかかった費用について補助 - 職場環境改善コース
設備や装置などの導入にかかった費用や、装具など熱中症予防対策にかかった費用について補助 - コラボヘルスケース
健康保険の保険者が従業員本人に事業カルテや保健事業を提供させるためにかかった費用について補助
※ 現時点で令和8年度以降の補助概要が公表されていないため、コースや要件などに変更が生じる可能性があります。
効果が見込まれる取組みにたいして補助が決定されるため、すでに実施した取組みにかかった費用にたいしては補助がされません。これから実施する取組にかかる費用にたいして補助されるものとなっており、見積もりに際して業者に費用の一部でも支払いをしている場合なども申請の対象外となりますので注意してください。
申請時には、実施にかかる費用の見積書や計画書を提出する必要があり、エイジフレンドリー補助金の審査・交付が決定されたあとに取組みの実施を行います。取組みの実施完了後、経費にかかった支払請求書類を提出し、結果および実績報告を行うことで、補助金の金額が確定し、交付されます。
(例)リスクアセスメントを行い、職場環境の改善のために機器の導入が必要となればその計画書と見積書を提出し、交付決定を待ちます。交付が決定されたのち、業者に機器を発注し、導入が完了すれば支払請求書を提出し、補助金の支給を待ちます。
おわりに
高年齢者の従業員が労災に遭わないよう、どういった取組みが求めれるのか国が示しており、また中小企業にたいしては補助金の支援があることをご紹介しました。
特に今年は指針が適用されたことで、どのように対応すればよいか悩まれている事業主の方もいらっしゃるのではないでしょうか。また、年々酷暑となっていく現在、特に高年齢者の方々にとって熱中症が身近なものとなっており、エイジフレンドリー補助金について注視されている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

高年齢者の従業員が安全に働けるような取組みなどについて「気になる!」という事業主の方は、ぜひ社会保険労務士までご相談ください。

