健康保険の給付について ~ ① 医療費 編 ~

健康保険の給付について医療費編
2026.04.01

健康保険の給付について ~ ① 医療費 編 ~

 日本では、国民全員が健康保険に加入し、安全で適正な保険診療を受けることになっています。

 そのため、すでに家族の扶養に入っているひとや自営業のひと、後期高齢者医療制度に加入しているひと以外は、会社を経由して健康保険に加入し、健康保険料を支払うことで、病気やけがによる治療費の一部を保険がまかない、本人の負担を抑えることになっています(美容医療や検診代、先進医療など、保険適用外とされるものは除かれます)。

 会社が従業員の健康保険の加入手続きをすると、従業員やその扶養家族(条件を満たしたひとのみ)は被保険者・被扶養者となり、保険診療や給付を受ける資格を取得します。

 また、健康保険には、病気やけがの治療にかかる費用だけではなく、それが原因で従業員が休業となってしまったときの手当金や出産にかかる手当金、亡くなってしまったときの埋葬料などといった給付制度もあります。

 それでは、健康保険によってうけることができる給付の内容やその手続きについて紹介させていただきます。なお、ここでは「全国健康保険協会(以下「協会けんぽ」といいます)」に加入しているひとの手続き方法をご紹介します。ほかの健康保険組合などに加入している方は、各保険者の制度を参考にしてください。

  • 保険者とは、加入している健康保険や医療制度の運営主体のことです。
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健康保険が適用されるのは “私傷病” です。
会社での仕事や通勤がきっかけで傷病を負ったときは、労災保険での給付となります。くわしくは『労災があったとき』をご覧ください。

 今回は、病院にかかったときの医療費について、紹介させていただきます。

病院にかかるとき

保険診療をうけるとき

 病院で保険診療をうけるときは、健康保険の資格情報を証明しなければなりません。
 過去には、名称が「健康保険証」という紙の証を提示していましたが、令和6年12月2日から健康保険証の発行が廃止されたため、現在は、マイナンバーカードを提示することになります。
 ただし、保険証としての利用登録をしていないマイナンバーカードでは、健康保険の資格情報を証明できません。マイナポータルや医療機関に設置されているカードリーダーなどを用いて、保険証としての利用登録をし、「マイナ保険証」として一体化させておく必要があります。
 もし、マイナンバーカードを持っていなかったり、保険証としての利用登録をしていないひとは、保険者から交付される「資格確認書」を提示します。なお、マイナ保険証があるひとでも、病院で資格情報が読み込めなかった場合などにそなえ、「資格情報のお知らせ」が保険者から交付されます。

Information

資格情報や加入する健康保険に変更があったとき、マイナンバーカードの保険証としての利用登録をしなおす必要はありません。保険者が変更の処理を行ったあと、自動的に新しい情報が反映されるようになっています。

※ 新しい情報が反映されるまで、数日かかる場合があります。特に、健康保険が変わるときは、前の健康保険の情報のまま病院に提示しないよう、注意してください。つぎの健康保険の「資格情報のお知らせ」を提示するか、健康保険の切り替わり中であることを申し出てください。自分で最新の状態を確認したいときは、マイナポータルで確認することができます。
※ 資格情報に変更があったことの申し出や、前の健康保険の資格喪失、つぎの健康保険の資格取得にあたっては、ひきつづき保険者にたいして届け出をしなければいけません。

自己負担額について

 保険診療をうけたとき、病院での自己負担額の支払いは、10割の総医療費のうち、つぎの負担割合の金額のみとなります(保険適用外の負担があるときは、別にかかります)。
例)30歳のひとが総医療費10,000円の診療を受けたとき、自己負担額は3,000円になります。

対象者負担割合
未就学児2割
就学後~70歳の誕生月(1日生まれは前月)まで3割
70歳になった翌月(1日生まれはその月)~74歳収入や加入者の状況により2割もしくは3割※

※ マイナ保険証を提示すると、負担割合の情報も病院に提供されます。マイナ保険証がないひとは、保険者から交付される「高齢受給者証」を資格確認書とともに提示しなければなりません。

 子ども医療や福祉医療、自立支援医療や指定難病などの公費制度の資格があるひとは、その制度の自己負担額になります(マイナンバーカードに資格情報が反映されない公費制度については、受給者証も提示する必要があります)。

医療費が高くなるとき

 総医療費のうち負担割合にかかる自己負担額が、区分に応じてさだめられる以下の“自己負担限度額”を超える場合、病院に「限度額適用認定証」を提示することで、その病院での支払いが1か月あたりの自己負担限度額までに抑えられます(「一般区分」「現役所得Ⅲ」に該当するひとの自己負担限度額はそれぞれの負担割合での最高額であるため、限度額適用認定証は不要です)。
 ただし、同じ病院でも医科入院・医科外来・歯科外来・歯科入院ごとに分かれ、それぞれ最大自己負担限度額まで請求されます。
 「限度額適用認定証」が交付されるためには手続きが必要ですが、マイナ保険証を提示し、限度額情報の提供や高額療養費制度の利用に同意する場合は、限度額適用認定証は不要です。ただし、自己負担限度額が「区分オ」「低所得者Ⅰ」「低所得者Ⅱ」に該当するひとは、住民税非課税世帯であることを申し出るため「限度額適用・標準負担額減額認定」の申請が必要です。

  • 「限度額適用認定証」の申請について
     協会けんぽに「健康保険限度額適用認定申請書(全国健康保険協会ホームページからダウンロードできます)」を郵送もしくは電子申請をする必要があります。
     証の有効期間は申請した月の初日から最長1年間です。
  • 「限度額適用・標準負担額減額認定」の申請について
     協会けんぽに「健康保険限度額適用・標準負担額減額認定申請書(全国健康保険協会ホームページからダウンロードできます)」を郵送もしくは電子申請をする必要があります。
     マイナンバーを利用した情報照会で住民税非課税なのか確認されることに同意しない場合は、被保険者と被扶養者の課税証明書を提出します(無収入のひとは、事前に無収入であることを住民税申告しなければなりません)。
     証の有効期間および区分の認定は申請した月の初日から直近の7月末までです。
  • 1か月あたりの自己負担限度額は、つぎのとおりです(令和8年3月時点)。
    ※ 標準報酬月額とは、通勤手当や残業代などを含むお給料から算出した一定の基準額のことです。
  • 70歳未満のひと
区分基準自己負担限度額
標準報酬月額83万円以上252,600円+(総医療費ー842,000円)×1%
標準報酬月額53万円以上167,400円+(総医療費ー558,000円)×1%
標準報酬月額28万円以上80,100円+(総医療費ー267,000円)×1%
標準報酬月額26万円以下57,600円
ほかの基準に該当しない住民税非課税のひと35,400円
  • 70歳~74歳のひと
    ※ 自己負担限度額(入院)とは、入院だけ、もしくは入院と外来があった月をさします。
区分基準自己負担限度額(外来)自己負担限度額(入院)
現役並み所得Ⅲ標準報酬月額83万円以上で負担割合が3割252,600円+(総医療費ー842,000円)×1%
※ 外来と入院の合計額
252,600円+(総医療費ー842,000円)×1%
※ 外来と入院の合計額
現役並み所得Ⅱ標準報酬月額53万円以上で負担割合が3割167,400円+(総医療費ー558,000円)×1%
※ 外来と入院の合計額
167,400円+(総医療費ー558,000円)×1%
※ 外来と入院の合計額
現役並み所得Ⅰ標準報酬月額28万円以上で負担割合が3割80,100円+(総医療費ー267,000円)×1%
※ 外来と入院の合計額
80,100円+(総医療費ー267,000円)×1%
※ 外来と入院の合計額
一般ほかの基準に該当しないひと18,000円57,600円
低所得者Ⅱほかの基準に該当しない住民税非課税のひと8,000円24,600円
低所得者Ⅰほかの基準に該当せず、住民税非課税で、被保険者と被扶養者全員の所得が0円8,000円15,000円

 なお、入院時の食事代や生活療養費も一部負担額となります(医療費とは別でかかります)。

高額療養費制度

支払った自己負担額がつぎの要件に該当した診療月については、「高額療養費」が支給されます。

  • 病院での支払い時に限度額適用がされておらず、自己負担限度額を超える支払いがあった
    例)区分オのひとが、A病院の外来で60,000円を支払った。
  • 外来でかかった自己負担額とその処方せんでの調剤にかかった自己負担額の合計が自己負担限度額を超えた
    例)区分ウのひとが、A病院の外来で12,000円を支払い、その調剤代をB薬局で57,600を円支払った。
  • 70歳未満の被保険者や被扶養者のなかで、21,000円以上の支払いがあったものの合計が自己負担限度額を超えた
    例)区分ウのひとが、A病院の外来で25,000円を支払い、A病院の入院で35,000円を支払った。
    例)区分オの被保険者がA病院の外来で30,000円を支払い、被扶養者がB病院の外来で23,000円を支払った。
  • 70歳以上の被保険者や被扶養者が支払った自己負担額の合計が自己負担限度額を超えた
    例)低所得者Ⅱのひとが、A病院の外来で6,000円を支払い、B病院の外来で3,000円を支払った。
    例)一般区分の被保険者がA病院の外来で2,000円を支払い、被扶養者がB病院の入院で57,600円を支払った。
    ※ 70歳未満のひとも21,000円を超えたときは、合算することができます。
    例)区分エのひとがA病院の外来で40,000万円を支払い、一般区分のひとが30,000円を支払った。
  • 多数該当
    1年のあいだに、限度額適用された月もしくは自己負担限度額を超える以上の支払いをした月が3回以上ある場合は、4回目以降の自己負担限度額がつぎのように低くなります。
    ○ 区分ア・現役並み所得Ⅲ・・・140,100円
    ○ 区分イ・現役並み所得Ⅱ・・・93,000円
    ○ 区分ウ・区分エ・一般区分・・・44,400円
  • 「高額療養費」の申請について
     協会けんぽに、「健康保険高額療養費支給申請書(全国健康保険協会ホームページからダウンロードできます)」を郵送もしくは電子申請をする必要があります。
     「区分オ」「低所得者Ⅰ」「低所得者Ⅱ」のひとで、マイナンバーを利用した情報照会で住民税非課税なのか確認されることに同意しない場合は、被保険者と被扶養者の課税証明書を提出します(無収入のひとは、無収入であることを住民税申告しなければなりません)。診療月が1月~7月であれば一昨年中の収入、8月~12月であれば昨年中の収入についての課税証明書が必要です(例:令和8年7月分の申請には、”令和6年中の収入”についてしめされた令和7年度の課税証明書が必要です)。
     診療月の翌月1日から2年以内に申請しないといけません。

10割の医療費を支払ったとき

 総医療費を支払い、つぎの要件に該当する場合は、自己負担額との差額が「療養費」として支給されます。
 協会けんぽに、「健康保険療養費支給申請書(立替払等)(全国健康保険協会ホームページからダウンロードできます)」を郵送もしくは電子申請をする必要があります。
 費用を支払った翌日から2年以内に申請しないといけません。

  • マイナ保険証や資格確認書の提示がなかったため、負担割合が10割だったとき
    病院に「診療明細書」を記入してもらい、10割で支払った領収(明細)書とあわせて申請します。
    ※ いちど自由診療とみなされたために支払った消費税は支給の対象になりません。
    ※ 病院によっては「診療明細書」の記入に手数料がかかる場合があるようです。
  • ほかの健康保険を誤って使用し、負担割合との差額を返還したとき
    ほかの健康保険に返還(納付)した際の領収書と、返還後にその保険者から交付される診療報酬明細書が必要です。
    ※ 診療報酬明細書が封かんされている場合は、開封してはいけません。
    ※ 診療日の翌日から2年以内に申請しないといけません。
  • 治療用装具(補装具)を購入し、装着したとき
    健康保険療養費支給申請書(治療用装具用)」の様式で申請します。
    医師が記入・証明した意見書・装着証明書(靴型装具の場合はその写真も)が必要です。
    なお、装具の明細が記載された領収書とあわせて申請します。
    ※ 装具の名称・種類、費用の内訳、オーダーメイドか既製品の情報、義肢装具士が不明な場合、支給に該当しなくなるおそれがあります。
  • 悪性腫瘍などの治療のために弾性着衣(スリーブ・グローブ・ストッキング)を購入したとき
    健康保険療養費支給申請書(治療用装具用)」の様式で申請します。
    病院が発行した装着指示書と、製品の名称・種類、単価、個数、費用の内訳が記載された領収書が必要です。
    ※ 保険適用の上限額があるため、一部の金額について支給されない可能性があります。
  • 9歳未満の子どもの小児用弱視眼鏡・コンタクトを購入したとき
    健康保険療養費支給申請書(治療用装具用)」の様式で申請します。
    医師の作成指示書と、製品の名称・種類、費用の内訳が記載された領収書が必要です。
    ※ 保険適用の上限額があるため、一部の金額について支給されない可能性があります。
  • 生血液の輸血をうけたとき
    輸血の回数が記載された輸血証明書と費用の内訳などが記載された領収書が必要です。
  • 臍帯血を搬送したとき
    傷病名・搬送の理由・搬送先・区間経路・期間・回数が記入された医師の意見書領収書が必要です。
  • 自己負担限度額が 「区分オ」「低所得者Ⅰ」「低所得者Ⅱ」のひとで、限度額適用されずに入院時の食事代を支払ったとき
    食事代の金額が記載された領収書が必要です。
    ※ マイナンバーを利用した情報照会で住民税非課税なのか確認されることに同意しない場合は、被保険者と被扶養者の課税証明書を提出します。上記『「高額療養費」の申請について』の注意事項をご確認ください。
    ※ 自己負担限度額が「区分オ」もしくは「低所得者Ⅱ」の期間中に90日以上入院があったひとは、食事代がさらに減額されます。入院日数が証明できるものを添付のうえ「健康保険限度額適用・標準負担額適用認定申請書」をさきに申請してください。
Information

協会けんぽに提出する書類は、原本での提出が必要となっています。
子ども医療や福祉医療などの公費制度でも支給があり、その申請にも書類が必要なひとは、事前にコピーをとっておくようにしましょう。

事故によってけがや病気になったとき

 仕事や通勤以外の私生活のなかで事故に遭い、けがや病気になったとき、治療費の負担はどうなるのでしょうか。

 たとえば、自転車に乗っているときにバランスを崩してコケてしまったときは自損事故と扱われます。
 このような相手がいない単独の事故でのけがや病気については、健康保険をつかって治療をうけることになります。
 ※ 無免許運転や飲酒事故など法令に反したことによる事故や、自傷行為によるけがは保険適用されません。

 それに対し、自動車事故や暴行、飼い犬に噛まれたなど相手(第三者)からの加害があって起きた事故は、第三者行為による事故として扱われます。これらの場合に生じた傷病にかかる治療費については、加害者が負担しなければなりません。
 一般的に、加害者が加入する任意保険会社が直接病院に治療費を支払いますが、やむをえず健康保険を使うことになったとき、本人の支払う金額は通常通り自己負担額のみとなります。そうすると、総医療費と自己負担額の差額は加入する健康保険がいちど負担することになりますが、本来は加害者が負担するものであるため、保険者は加害者・加害者の加入する任意保険会社に対して求償することになります。

  • 健康保険を利用するときは、保険者に対し、事故が原因であることを申し出なければなりません。
    単独事故や第三者行為での事故など、状況を報告するため、協会けんぽに「健康保険負傷原因届全国健康保険協会ホームページからダウンロードできます)」を郵送します。
第三者行為による傷病について
 保険者が加害者・加害者の加入する任意保険会社に対して求償をするため、つぎの書類を届け出なければいけません。
 書類の様式は、全国健康保険協会ホームページからダウンロードできます。
・「第三者行為による傷病届
・「事故発生状況報告書
・保険者が求償の権利を取得することや関連する事務への「同意書
・「損害賠償金納付確約書・念書」⇒加害者側が記入するものですが、署名が得られない場合はその理由を記入します。
・警察が発行する交通事故証明書(入手できない場合は「人身事故証明書入手不能理由書」)
・物損事故のときは「人身事故証明書入手不能理由書
「いらすとや」様の素材を使用させていただいております。

 なお、自分にも過失割合があるなど、加害者と示談におよぶときは、保険者が加害者にたいして求償ができず、健康保険が負担した治療費の返還を請求されるおそれが生じます。
 示談をする前に必ず、保険者に連絡をしましょう。


まとめ

 今回は、病院にかかったときの医療費に関する制度や給付について紹介させていただきました。

 マイナ保険証もしくは資格確認書を提示すれば自己負担額で受診することができる一方、高額療養費などの制度についてご存じなかった方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 保険者によっては制度の適用や給付について申請必須としているところがあるため、対象となる給付を知らないまま時効を迎えてしまっていることもあるかもしれません。
 特に、病院で限度額を適用しないまま高額な医療費を支払ったとき、自己負担限度額を超えた金額があっても高額療養費として返ってくるまでに数か月かかるため、出費が大きい期間がうまれてしまいます。たとえば、複数月にまたがって入院したときは、出費ばかりがつづいてしまうだけでなく、高額療養費の申請も複数月分手続きしないといけないため、手間がかかってしまいます。

  • 従業員から医療費に関する相談をうけたとき、健康保険の手続きが必要なときは、ぜひ社会保険労務士までご相談ください。

 次回は、医療費のほかに健康保険から給付される制度やその手続きについてご紹介します。

2026.04.01